トンボからヒントを得た微風駆動型小型プロペラ風車(小幡章)

日本の政情、とりわけ司法官僚ぐるみの小沢謀略裁判事件をみていると暗澹たる気分になるけれど、日本人の生み出す技術をみているとワクワクしてくる。こちらの方が精神衛生にとっては良い。


5月6日NHKで放送のサキどり「医療!エネルギー! スゴイぞ 虫パワー」がおもしろかった。

この番組はほとんどハズレがないので気に入っている。

(1)ミドリムシのパワーや(2)ヤママユの幼虫成分のガン細胞増殖抑制作用の話もおもしろかったが、3つめの(3)トンボの羽をヒントに発明した小幡章さんの微風でも回る風力発電、の話にビリッときた。


風車発電は魅力的ですが致命的な問題点がある。

1)ある程度の風力が無いと発電できない。(常時風が吹いているところなど設置場所が限定される)

2)微風では発電ができない一方、台風のような強風にも耐えられるような強度と構造が必要。そのために大型化しコストが増大化する(火力発電の倍近いコスト)。

3)大型風車は低周波騒音やバードストライク(鳥の衝突)の問題もある。

上記の3つの問題を解決するのが、この微風でも回る風車。

小幡章さんはトンボの飛翔行動の研究からこの微風発電風車を着想し発明した。

この風車の秘密は、羽の表面形状にある。

トンボの羽は一見平らに見えるが、実は細かい凹凸がある。この凹凸によって、ほとんど風がなくても空気の渦が形成されて、その渦によってトンボの絶妙な飛行やホバリングが可能になっていることを小幡さんは発見した。

流体実験の結果、トンボは羽の表面凸凹を利用して、先端から翅の上面に小さな渦を次々につくり出し、後ろに向かって流すようにしていること。シャープペンシルの芯の太さくらいの小さな渦の列を利用して空気の翼型を形づくり、その外側の空気を速やかに流すという想像を絶する巧妙なしくみがあることがわかったのだ。

これは、これまでの飛行力学ではわからなかった驚きの構造である。

おそるべし、トンボたち!(トンボは3億年前から地球上に生息し進化をしつづけてきたのだ。)

下の写真で、緑色に光っているのが空気の流れ。黒い部分が羽の断面形状。頭の方向(写真右側)から風が来ると独特の凹凸により、羽の上方面だけに渦ができる。空気は渦を巻くと、周りより気圧が下がるため、これによって上向きの揚力が生まれる。小幡さんは、この原理を風車のプロペラに応用した。

プロペラに当たったわずかな風が、裏側に小さな渦を形成する。渦によって気圧が下がったプロペラは下方向に回り始める。と同時に気圧が低い方に空気が入り込み、回転が加速する。こうしてわずかな風でも回転できる。番組では、秒速0.1メートルでもクルクル回っていた(0.3メートル未満は気象学では「静穏」と呼ばれ、"ほとんど風は吹いてない"状態)。

ところで、今回の番組では、強風時(たとえば台風)にどうなるか、という話はなかったけれど、特許公報を検索してみると以下のような発明がありました。(発明者は小幡さん本人)

特許公開2011−058483(小型プロペラ風車)

これは、強風時には柳のように撓(しな)る構造の小型プロペラ風車です。(詳細は公報参照)

強風にはしなやかな柳のようになびいて風をやり過ごす風車なんて、「風情」があってなかなかいいではないか!

つまり、小幡先生のトンボ風車は、微風でも回って発電し、強風の際にはしなやかに風をやり過ごす。そんな魅力的な風車です。

なんと「しなやかな技術」であることか。

生物や自然の叡智を活用した技術分野を「バイオミミクリー技術」や「ネイチャーテクノロジー」というが、このトンボ風車はそのすぐれた成功例だと思う。

トンボ風車は、最大出力では従来の風車にかなわないけれど、場所を選ばず身近に設置でき、安価で安全かつ軽量。しかも天候や風速に限定されず長時間稼働させることが可能になるところがメリット。

今後の課題は、微風でも回る風車からいかに効率的に電力を取り出すか、そして蓄積するか。小幡先生は、微風でも効率的な発電が可能な新しい発電機の開発を始めているらしい。新しい風車には新しい発電機が必要だということ。期待したいところ。

あるいは、風車からの動力を直接発電機に送って発電するのではなく、いったん機械的なエネルギーに蓄積することも考えられないだろうか。たとえば、東洋ゼンマイ(長谷川光一)が小水力発電で提案しているような技術。(これについては、後日紹介したい。)

小幡章さんは、現在、大分県日本文理大学の教授。東京大学工学系大学院航空学専修博士課程修了後、日本飛行機(株)に入社して飛行機の研究に従事。平成13年から日本文理大学

小幡先生は、あの「はやぶさ」プロジェクトにもかかわっていたそうです(サンプル収集装置など)。


【参考資料】
●NHKサキどりのサイト
http://www.nhk.or.jp/sakidori/backnumber/120506.html
2012年5月 6日放送
「医療!エネルギー! スゴイぞ 虫パワー」


日本文理大学大分県大分市)のサイト
マイクロ流体技術研究所
http://www.nbu.ac.jp/education/microryutai/index.php

★この大学の昆虫型超小型飛翔ロボットの研究↓もおもしろそう!
「昆虫型超小型飛翔ロボットの研究開発」プロジェクト
http://www.nbu.ac.jp/~mfrl/


●小幡章先生の特許公報
日本特許庁のサイトに入って、発明者「小幡章」で検索すると、13件の現在公開されている特許公開公報がヒットした。
(文理大学の教授になる前の会社勤務時代の発明も含まれているようです。ゴルフスイング練習機なんかも発明されていたんですね。)

  (公開番号/登録番号) (発明の名称)
1. 特許公開2011−256855  低速流発生装置
2. 特許公開2011−058483  小型プロペラ風車
3. 特許公開2010−083466  超小型飛行体
4. 特許公開2010−036874  近接タンデム翼飛行体
5. 特許公開2006−264657   高揚力装置
6. 特許公開2002−242816  風力発電装置
7. 特許公開平11−034998 ペイロード放出装置
8. 特許公開平11−009749  ゴルフスイング練習器
9. 特許公開平10−165550  ゴルフスイング練習器
10. 特許公開平09−242987 伸縮体
11. 特許公開平09−014894 赤外線放射装置
12. 実用新案公開平07−032395  水上自走目標体
13. 登録実用新案第3148233号  低レイノルズ数用翼型

                                                        • -

★上記公報のうち、とくに以下↓の公報に羽の表面形状の秘密が明かされている。
13. 登録実用新案第3148233号  低レイノルズ数用翼型

★強風時には柳のように撓(しな)る構造の小型プロペラ風車の詳細は以下の公報参照。
強風にはしなやかな柳のようになびいて風をやり過ごす風車なんて、「風情」がある。
2. 特許公開2011−058483  小型プロペラ風車


●トンボから学んだ風力発電(PDFファイル)
以下↓のPDFがよくまとまっています。
http://www.nbu.ac.jp/topics/archives/mfrl-201103.pdf