佐野明人の非電化・歩行支援機(その2)

昨日とりあげた「無動力歩行支援機」、調べれば調べるほど優れた発明だと思います。

「受動歩行」の原理を具現化するために、二重振り子とバネとカムの組み合わせを巧妙に利用している。あらゆる装飾や無駄をそぎおとしてシンプルかつコンパクトな装置にまとめている。引き算の技術。このシンプルさが美しい。

「受動歩行」(Passive Dynamic Walking)とは、脚の付け根と膝を軸とする2重の振り子運動を利用した歩行技術。人間が二本の脚で歩こうとするときに自然に生じる「物理的原理」である。純粋に物理的なものであって、生理学的なものではない。

この原理自体は1990年にTad McGeerによって数理科学的にある程度解明されている。ASIMOなどの歩き方(動歩行)とは原理的にまったく異なる省エネ歩行原理である。


この↓動画は、Tad McGeer博士による受動歩行のデモ。

●McGeer and Passive Dynamic Bipedal Walking
http://www.youtube.com/watch?v=WOPED7I5Lac


興味深いことは、受動歩行の原理は、おそらく、進化の過程で現生人類が獲得した二足歩行の秘密に関係しているのではないか、ということ。

弊ブログとしては、技術人類学的にこの点にとても興味がある。

ほんの少しのエネルギーで長距離の歩行を可能にする身体技法。これが現生人類の直立二足歩行の特徴。

直立二足歩行と大脳の肥大化。この二つの共起的ファクターによって、現生人類は地上の他の類人猿とは異質な進化を遂げたと考えられているが、人類進化(ホミニゼーション)の謎は、この受動歩行の獲得のプロセスに関連しているにちがいない。ついでに立ち上がることによって両手(つまり前足)が自由になってモノづくりがはじまった。(いや、逆に、モノづくりを始めるために直立二足歩行を始めたのかもしれません。)

飛行機械の比喩でいえば、動力で飛ぶ飛行機に対して、佐野明人さんの開発した無動力歩行支援機は動力を使わないグライダー。グライダーは大気さえあれば何時間でも飛行する。同じように、この無動力歩行支援機は、たとえ麻痺していたとしても、わずかでも身体機能が残っているかぎり、外部動力なしで人間の歩行をアシストし続ける。


ところで、この原理を利用した「受動歩行ロボット」は、無動力の長時間歩行でギネスにも登録されている。(100時間・16.3キロメートル)

この発明は、脚や脊髄に障害のある方はもちろんのこと、脚の筋力が弱くなった年配の方々の歩行をもアシストする優れた技術である。

単に歩行を補助するだけではなく、身体の潜在的機能を引き出して目覚めさせてくれる適正技術でもある。(この点において、以前紹介した、脊髄反射機能を活性化する「足こぎ車いす」と技術思想が似ていますね。)

歩行をアシストすることによって歩行が楽になり、自分の力で歩行することのよろこびが生まれる。(現生人類は歩くことに本源的な悦びを感じる動物なのです。)

歩行→よろこび→歩行。

この好循環が身体機能全体をさらに活性化するのではないだろうか。

佐野明人さんは岐阜大学出身で現在名古屋工業大学の教授。受動歩行研究の第一人者。逸材。

岐阜大学といえば、今西進化論で有名な今西錦司が学長をしていた時期がありました。佐野先生は今西進化論に刺激を受けたのかな?


以下の動画が勉強になります。

●[Non-Powered Exo Suit Walker]-ACSIVE_無動力歩行支援機_名古屋工業大学&今仙技術研究所
http://www.youtube.com/watch?v=dPcvwmhNlS0


【参考】
佐野研究グループと共同開発した岐阜県各務原市の今仙技術研究所のサイト。

●株式会社今仙技術研究所(岐阜県各務原市
http://www.imasengiken.co.jp/acsive/image/ACSIVE.pdf


この↓サイト記事は、佐野教授のインタービューに基づくとても詳細かつ分かりやすい秀逸レポートです。必読文献。

●ロボットの歩行から福祉機器まで 名工大・佐野教授が語る「受動歩行」
http://news.mynavi.jp/articles/2014/06/13/acsive/


特許庁のサイト(IPDL)において「佐野明人」で検索すると、現時点において以下の特許公開公報がヒットする。(同姓同名の発明者のものも含まれている。)

無動力歩行支援機に関連する公報が数件ある。

項番 公開番号/登録番号 発明の名称
1. 特許公開2013−236741 片脚式歩行支援機
2. 特許公開2013−225177 形状校正方法
3. 特許公開2013−225176 触覚ディスプレイ
4. 特許公開2013−225174 形状修正方法
5. 特許公開2013−225173 デザイン形状提示装置およびデザイン形状提示システム
6. 特許公開2013−091151 関節トルク発生装置
7. 特許公開2012−242998 ヒューマンマシンインタフェイスデバイス及びCADシステム
8. 特許公開2012−200793 足機構
9. 特許公開2012−133443 触覚ディスプレイ
10. 特許公開2011−229849 人工手
11. 特許公開2011−167453 病変組織摘出装置に用いる吸引管
12. 特許公開2011−147719 病変組織摘出装置
13. 特許公開2011−131677 脚式運搬機
14. 特許公開2011−104987 物品の表面構造
15. 特許公開2011−059056 触覚呈示装置および触覚呈示ディスプレイ
16. 特許公開2010−190757 座屈を利用した荷重負荷機構
17. 特許公開2010−120399 車両用内装部品
18. 特許公開2010−054515 凹凸検出位置呈示装置および凹凸検出位置呈示方法
19. 特許公開2010−022197 ブラシホルダの製造方法
20. 特許公開2009−198302 流体を用いた触覚センシング方法および流体を用いた触覚センサ
21. 特許公開2009−139179 計測装置
22. 特許公開2009−115595 計測装置
23. 特許公開2009−050911 圧延機の操業支援方法および装置
24. 特許公開2008−259575 線状体の駆動装置
25. 特許公開2008−216002 可撓性線状体の圧縮力計測装置
26. 特許公開2008−194758 作業補助装置、作業補助方法及びその作業に使用するワーク回転装置
27. 特許公開2008−190910 曲がり度合い検出装置およびそれを用いた曲がり度合い検出方法
28. 特許公開2008−185361 圧縮力計測装置
29. 特許公開2008−185360 圧縮力計測装置
30. 特許公開2008−171409 触覚に作用する方法およびそれを実現する触覚デバイス、屈曲可変機構
31. 特許公開2008−064508 可撓性線状体の圧縮力計測装置
32. 特許公開2008−064507 可撓性線状体に作用する力の計測装置および方法
33. 特許公開2008−020249 計測装置ならびにそれを備えた医療装置および訓練装置
34. 特許公開2007−292711 可撓性線状体の圧縮力計測装置および方法
35. 特許公開2007−219869 仮想現実感呈示装置
36. 特許公開2007−202675 センサならびにそれを備えた医療装置および訓練装置
37. 特許公開2007−144096 注射補助装置
38. 特許公開2007−098524 作業補助装置
39. 特許公開2007−098507 作業補助装置
40. 特許公開2007−038315 操作装置と操作子の動作調節方法とそのためのプログラム
41. 特許公開2007−038314 作業補助装置
42. 特許公開2007−038059 作業補助装置
43. 特許公開2006−280058 ブラシホルダの製造方法
44. 特許公開2006−247794 操作装置と、操作子の動作調節方法と、そのためのプログラム
45. 特許公開2006−227332 表示装置、制御方法、制御プログラム及び記録媒体
46. 特許公開2006−224283 凹凸増幅機能を有した凹凸補修部材および凹凸補修方法
47. 特許公開2006−218573 操作装置と、操作子の動作調節方法と、そのためのプログラム
48. 特許公開2006−167889 操作子の移動装置と移動方法とそのためのプログラム
49. 特許公開2006−059156 搬送作業の補助装置と補助方法
50. 特許公開2006−024150 操作装置
51. 特許公開2005−291908 変形検出部材、変形検出部材を用いた凹凸検出方法、凹凸検出位置呈示装置および凹凸検出位置呈示方法
52. 特許公開2005−202067 技能訓練装置
53. 特許公開2005−199368 微細作業用マスタスレーブツール
54. 特許公開2005−195342 凹凸増幅部材および凹凸増幅部材を用いた凹凸検出方法
55. 特許公開2004−358634 触覚センサー内蔵ソフトフィンガー
56. 特許公開2004−344491 仮想手術シミュレーションシステム
57. 特許公開2003−079678 移乗介護支援機
58. 特許公開平09−242882 電気粘性流体のシール方法
59. 特許公開平07−207294 粘性ダンパ−および制御装置
60. 特許公開平06−332532 電気粘性流体を用いたアクチュエーター
61. 特許公開平06−274226 制御量制御装置
62. 特許公開平06−233158 TVダイバーシティのゴーストが少ないアンテナからの受信信号の選択装置
63. 特許公開平06−021837 受信装置
64. 特許公開平05−075507 アンテナ選択制御装置
65. WO2012/002078 歩行支援機
66. WO2011/078104 2脚受動歩行機
67. WO2011/036787 触覚ディスプレイ及びCADシステム
68. WO2006/132330 脚式移動体の平衡点安定化装置
69. WO96/002887 仮想現実感および遠隔現実感システム