賞味期限が切れる前に、先日の三重の旅メモのつづき。
いよいよ旅のクライマックス、本居宣長(もとおり・のりなが)ゆかりの地、松阪。
「東洋のソクラテス」と呼ばれている本居宣長(小林秀雄のCDを聞いているとき思いついて、かってに弊ブログがそう呼んでいるだけですが・・)。
72年の生涯のあいだに宣長さんが成し遂げた仕事は多い。特に、古事記の解読は有名ですね。古事記は当時だれも読むことができなかった謎の文書だった。
そのわけのわからなった謎の文書を、彼は35年かけて解読した。しかも小児科医で生計をたてながら。
これは、ジャン=フランソワ・シャンポリオンによるロゼッタ・ストーンの解読(1822年)に匹敵する偉業。
否。宣長さんはシャンポリオンよりも断然偉い。単に文字を解読しただけではなく、そのプロセスにおいて、古代人の「心ばえ」をまざまざと蘇らせるための哲学をつくりだしたからだ。
小林秀雄によれば、ギリシャの哲人・ソクラテスと本居宣長は神話の解釈において共通するものがある。
ソクラテスは古代人の神話をそのまま信じた。本居宣長も古事記に書かれていることをそのまま信じた。この二人は、「古代人の心ばえ」を今の人々の心に蘇らせることの重要性について、同じような哲学に達していた。
さらに、本居宣長の重要な思想を解くキーコンセプトとしての「物のあはれを知るこころ」。
本居宣長の云う「物のあはれ」とは、平安朝歌人が花鳥風月を感嘆し愛でる、といった通俗的な狭い意味ではない。
もっと深くて広い意味と哲学が込められている。本居宣長は、契沖の教えや賀茂真淵の万葉集の研究、さらには自らの源氏物語の独創的研究を通じて、この「物のあはれを知るこころ」を発見した。それまで誰もやらなかった仕方で。
以下、つづく。