検証(72)副島隆彦vs.武田邦彦ケンカ対談

最近出た副島隆彦vs.武田邦彦原発事故、放射能、ケンカ対談」(幻冬舎)を読む。

出張から日本に帰って一番に読みたかった本がこれ。実におもしろかった。いろんな意味で。

まず、311での核兵器使用を偽装するための福島原発事故の背後にある二つの言説の対立構造がよくわかる。

この本で武田邦彦という学者の正体がわかった。武田先生の震災直後のブログ発信情報はとても貴重で信頼していたけれど、この人は実はガチガチの「直線派」だったのですね。

武田先生は、放射能はどんなに低レベルでも癌のリスクがある、危険だ危険だ、怖い怖い、と強硬に言い続けている。福島県の現場に行って自分で確認したこともないのに、そのように自分のブログで言いつづけている。この人は日本にとって危険人物だと敢えて言いたい。福島の現実を見ないで自分のかってな「信念」でいい加減なことを発信し続けている。そしてその影響力は絶大。(現実に数十万人に及ぶB層主婦層が影響を受けている)

放射線医学の専門家でもないのに、大昔に読んだ誰かの論文を根拠に、長崎大学放射線医学の専門医である山下俊一教授の見解を「嘘」だと公言して憚らない。

武田氏の発言の影響力は大きいのでこの事実は重大だ。テレビのバラエティ番組に出ているのもなんだか怪しい。本人は自覚していないかもしれないが、放射能怖い怖いを煽っている裏社会にうまく利用されている感じがする。

もう武田先生の言うことは信用できない、ということがこの本ではっきりとわかった。

最初から副島氏と武田氏の議論はまったくかみ合わず平行線。このケンカにもならない平行線の理由が本のなかで必ずしも明示されていないのが残念だ。わずか第80頁のグラフと副島氏のあとがきで触れられている程度。この対談内容からは、読者はどうしてこの二入の議論がかみ合わないでケンカにもならないのか、よくわからないと思う。

実はこの平行線の理由は以下の決定的な対立にあると思う。

直線派vs.閾値(しきいち)派

直線派=放射能はどのような低レベルでも体に悪い、癌になる。
閾値派=閾値内の低線量率であればむしろ体に良い(例:ラドン温泉、放射線ホルミクス)。

この平行線は交わることがない。だからケンカにもならない。

直線派の主張は生物学的にみても医学的にも非科学的だと思いますが、皆さんはどう思われますでしょうか?

以前、武田邦彦先生の二酸化炭素温暖化説の欺瞞を暴く著書「地球温暖化のウソ」など数冊読んで(昔弊ブログでも紹介した)、この先生はスゴイと思っていましたが、今回はまったくガッカリです。「放射能汚染のウソ」という本を期待していたのに・・・、残念です。

武田先生の「放射能怖い怖い」言説は、今や「福島原発20キロ圏内を世界の核廃棄物最終処分場にする」という政府(背後にアメリカがいる)の方針を黙秘的に支持するためのプロパガンダに利用されつつあるのではないか。

以下、読書メモ。

●副島: 危険だったのは、3月16日までなんですよ。本当に放射線量は急激にずっと減っていますよね。
 (←たしかに文科省のデータをみると16日以降は劇的に減って、その後は発生していないと思われる。)

●副島: 放射線がね、いったいどれくらい撒き散らされたかと言いますと、私の個人的な測定では、この1か月半調べてみて、最初の4日間にだけ(3月12日から15日まで)ほとんどは撒き散らされたようです。・・・それで、放射性物質の全放出量の95パーセントぐらいが、最初の4日間で撒き散らされて、それで終わったんだろうと私は思っています。
 (←おそらく3号機の意図的核爆発によって発生した放射性物質福島原発由来の放射能のほとんどを占めているのではないか。その後は出ていないということだろう。)

●副島: でも元々、放射線医学者たちは、年間100ミリシーベルトぐらいは健康に害はない、発病(がんの増加)したデータはまったくない、とはっきり言っています。

●武田: 僕は冷静になるべきだと言っているはずなんですよ。なぜかといったら、放射線は危険なんだから。・・・だって危険なんですから。
 (←これが武田先生の本音。典型的な直線派である。年間1.4ミリシーベルトの自然放射線も体に悪いということだ。)

●武田: 放射線に安全なレベルは存在しないことは、医学・科学界において広く合意されています。
 (←ここで言っている「合意」とは「直線派」の学者村内部での合意にすぎない。この発言から、武田先生はガチガチの直線仮説の信者であることが明らかだ。)

●副島: 私はね、武田さんが1人でコンセンサスがあると勝手に言っているだけだと思っています。放射線健康被害の規制値(上限)について、ほかの前述した専門家たち(山下俊一氏や中川恵一氏)とコンセンサスがあるとは思っていません。この私の主張も分かってください。
 (←これが正論だと思います。しかし、武田氏は直線仮説のみに基づいて、影響力の絶大な自分のブログで「放射能怖い怖い」言説を発信し続けていると思われます。)

原発事故、放射能、ケンカ対談

原発事故、放射能、ケンカ対談