最近買った本の中では、この本が一番気になる良い本だ。いい本に出会った。
誰が言ったか忘れてしまったが、言葉や言語は人類が生み出した技術のうちで最大/最高の技術(テクノロジー)である、と言った哲学者がいた。たしかにそうだと思う。
人類が言葉を生み出したのではなく、言葉という極めて特殊な技能が生みだされることによって、人類という極めて特殊な「種」がこの地球上に生みだされた、というのが本質だろう。
言葉こそがあらゆる情報宇宙を創造するためのすぐれた道具であり装置である。
では言葉はなぜ、どのようにしてうまれたのか。
岡ノ谷先生の仮説は、「歌から言葉が生まれた」というものだ。長年のジュウシマツの歌の研究からこの仮説が生まれた。鳥の複雑なさえずりは文法規則の前適応。
この文法規則の前適応の他に、発声学習ができること(真似ができること)、音と意味が対応していること、社会的関係のなかでkとばを使い分けることができること、の4つの条件が言葉の起源に必要であるという。
進化論的なアプローチだ。
特に人類の場合は、社会集団化がうまくいって外的に対する対抗力が強化され、赤ん坊が大声で自由に泣いてもOKになった。このため、親をコントロールするために赤ん坊がいろんな鳴き声を出すようになり、より複雑な鳴き声を出すために呼吸をコントロールする機能を身につけるように進化した、というのだ。
ロビン・ダンバーの「言葉の毛づくろい起源説」と組み合わせるとおもしろいかも。
しかし、進化論的アプローチからは決定的なポイントが抜け落ちているのではないか、とも思う。そのポイントとは、「言葉を使おうとする意欲」だ。たとえば、チンパンジーは、音声言語以外の、たとえば手話や記号を駆使してある程度複雑な言語的表現をすることができるかも知れないが、彼らは恒常的に言語表現を用いて、非在の現前を試みたり、過去や未来の物語を語ろうとは一切しない。現在とここに縛られている。
言葉を使うことのよろこびを感じていないのだ。このことこそが言葉の起源のもっとも重要なポイントではないかと。岡ノ谷先生は、言葉を使うことのよろこびや欲動の問題をどのように考えているのだろうか。
しかし、この岡ノ谷先生の本はいろんなことを考えさせてくれて、とても良い本です。
- 作者: 岡ノ谷一夫,石森愛彦
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2010/07/13
- メディア: 単行本
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