ヒトはいかにヒトになったか(正高信男)

ヒトはいかにヒトになったか―ことば・自我・知性の誕生

ヒトはいかにヒトになったか―ことば・自我・知性の誕生

 積読本の山が崩れて、「私を読んで!」、と滑り出てきた本。正高信男の本はだいたい買って読む。京都大学霊長類研究所教授。とてもユニークな学者である。
 ネアンデルタール人は話をしたか?これは本質的な問いである。
 正高信男先生の結論は、話せなかった、である。ぼくもそう思う。
 正高教授は、最近研究が進んでいる「言語遺伝子」が誕生した年代から類推する。人間でも言語遺伝子が欠損している人は言葉を操作する能力が失われる。このような言語遺伝子が生じたのは10万年前と見積もられている。誤差範囲を考慮しても15万年〜18万年前である。
 そして現世人類が発生したのは約10万年前である。つまり、言語遺伝子が出現した年代と現世人類の出現年代が一致するのである。
 一方、ネアンデルタール人は30万年前から地球上に棲息していた。30万年から生活していた動物が10万年前に劇的に行動様式が変化すると考えるには無理がある。「それでは、途中で大がかりな行動の変化が生じたわけで、それでは革命的な出来事の生じる前と同じ生じた後を、ネアンデルタール人とひとまとめにくくることができなくなってしまうはず、とうことになる。むしろ、彼らが生きていた年代の間に、途中で話のできるニュータイプの近縁種が現れた、とする方が矛盾のおきないシナリオだろう。そしてそのニュータイプこそ、まさに現世人類であったのだ。」と正高先生はいう。
 ぼくは、これは当たっていると思う。これは別の本で読んだが、発掘されたネアンデルタール人の子どもの化石から、ネアンデルタール人には現世人類のようなネオテニー化が認められないことがあきらかになっている。彼らは生まれてからすぐに成人になってしまう。これが一つ。
 もう一つは、ネアンデルタールは、かつてヨーロッパに棲息しいつのまにか絶滅したマカク類のようなサルの仲間のように毛皮に覆われた野生動物であった!←これは「はだかの起源」(島泰三)の仮説である。