万葉集がとても気になり始めた。
今から1300年ほど前に日本列島に住んでいた人々がありとあらゆる歌や詩を詠みながら生活していた。そしてそれらの歌や詩があるとき集大成された。
その数は約4500首。ものすごい数だ。数だけでも圧倒される。
よくぞこれだけ集めたものだ。この時代に。
世界に類のない詩(歌)のアンソロジー。
629年から759年にわたる130年間の歌の集成。
上は天皇、皇族から下は防人や庶民まで。あらゆる階層の人々の歌の集成。帰化人や渡来人の歌も分け隔てなく集めた。渡部昇一氏はこれを、西欧キリスト教社会の「神の前における平等」と対比して、「歌の前における平等」といった。名言だ。
歌うことを楽しみ、こちらが赤面してしまうような恋心をぶつけ合い、人生や生活をおおらかにうたい、そして死を痛む歌も多い。
誰がどのような目的で4500首という膨大な数の歌をどのようにして集めたのか、というのも大きな謎であるが、最大の謎は、やはり柿本人麿だ。柿本人麿は西欧でいえばホメロスに相当する天才詩人。かれが何故に石見の国で死ななければならなかったのか。病死でもなく、自殺でもなく、刑死を受けなければならなかったのか。
柿本人麿の謎に挑戦した梅原猛氏の「水底の歌」はノンフィクションミステリーの傑作。この本と井沢元彦氏の「逆説の日本史」を併せて読めば、柿本人麿の死の謎が極めてクリアーに理解できる。
この謎解きはスリリングで下手な推理小説よりもおもしろい。
桜井満氏の折口民俗学からアプローチした万葉集もおもしろい。