日本人技術者の快挙

iPodに使われているリング状のクイックホイールは日本人発明家の特許を侵害しているとして、東京地裁がアップル社に対して3億3600万円の賠償を命じる判決を言い渡したというニュース。

驚きました。

個人がアップルという巨大企業相手に勝ち取った特許権侵害という判決はおそらく初めてではないでしょうか。快挙です。

発明者の齋藤憲彦氏(56歳)は、大手IT企業を早期退職した技術者で、これまでノートパソコンの操作に関する技術の発明などを手掛けているらしい。

さっそく特許庁サイトで公開特許情報を検索したところ、以下の特許がヒットしました。おそらくこれ↓だと思われます。

【特許番号】特許第3852854号(P3852854)
【登録日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【発明の名称】接触操作型入力装置およびその電子部品


クレーム(特許請求の範囲)は以下の通り。

【請求項1】
リング状である軌跡上に連続してタッチ位置検出センサーが配置されたタッチ位置検知手段と、
接点のオンまたはオフを行うプッシュスイッチ手段とを有し、
前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡に沿って、前記プッシュスイッチ手段が配置され、かつ、
前記タッチ位置検知手段におけるタッチ位置検出センサーが連続して配置される前記軌跡上における押下により、前記プッシュスイッチ手段の接点のオンまたはオフが行われることを特徴とする接触操作型入力装置。
【請求項2】
請求項1記載の接触操作型入力装置であって、前記プッシュスイッチが4つであることを特徴とする接触操作型入力装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の接触操作型入力装置を用いた小型携帯装置。

極めてシンプルなクレームですね。つまり、「リング状のタッチ位置検出センサ」と「プッシュスイッチ手段」を組み合わせた入力装置というかなり広い権利範囲になってます。これじゃあアップルもたまらない。

審査経過を調べると、最初の特許出願はiPodが発売される前の1998年1月6日であり、この出願は最終的に拒絶されている。その後、現在の代理人弁理士に代わってアップルの製品を狙った分割出願を数件だしているようです。そのうちのこの1件だけが特許査定になっている。


うーん、なかなかやるじゃないかこの弁理士は!


ただし、この発明は日本だけに出願されており海外に出願されていないのが残念。つまり原出願時(1998年)の時点では、この発明の重要性がまだ認識されていなかったってことなのでしょう。よくある話ですが。

いずれにしても、この発明家の独創的創造力とそれを支えた弁理士知財戦略に拍手。



●iPodボタンは特許侵害…アップルに賠償命令
http://www.yomiuri.co.jp/net/news0/national/20130926-OYT1T00717.htm?from=ylist

 携帯音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」のリング状の操作ボタンを巡り、米アップルが特許権を侵害しているとして、発明家の男性側がアップル日本法人に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(高野輝久裁判長)は26日、特許権侵害を認め、同社に約3億3600万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
 原告側によると、アップルの主力商品を巡り、特許権侵害を理由に同社に賠償を命じた判決は国内では初めてだという。原告側は製品販売の差し止めは求めておらず、iPodシリーズの販売に影響はない。
 問題となったのは、「クリックホイール」と呼ばれるリング状ボタン。指でなぞることで、演奏する楽曲を選択したり、音量を調整したりできる。
 アップル側は「特許は無効だ」などと主張したが、判決は、この技術を搭載したiPodシリーズ5機種は、2006年に登録された男性の特許権を侵害していると判断。ただ、賠償額については、「5機種の売上高は5900億円を超え、原告の発明の寄与度は100億円を下らない」とする原告側の主張は採用せず、大幅に下回る認定をした。
 原告側は賠償額が低すぎるとして控訴する方針。アップル日本法人は「ノーコメント」としている。
(2013年9月27日00時33分 読売新聞)