道具学会研究発表フォーラム(その1)


 昨日と今日は道具学会を覗きに行く。四谷三丁目の東京おもちゃ美術館にて2日間の研究発表フォーラム。おもしろい研究発表がいくつかあった。以下、備忘録メモ。



東京おもちゃ美術館は昨年の4月に開館されたとてもおもしろい博物館。廃校になった小学校の一部(半分)を占める。本物の木をふんだんに使った気持ちのよい空間になっている。館長の多田千尋さんは多くのおもちゃ関係の本も出されている。ユーモアたっぷりの魅力的な人だ。ここには世界中から集められたおもちゃが使える状態で展示されている。



1.磯貝恵三氏の道具概論試案「棒とヒモ」
 道具の原点は「棒」と「ヒモ」にあり、という試論。棒とヒモさえあればあらゆる道具の製作が可能。おもしろい。
 棒やヒモは線的な素材だが、点的な素材(石など)、あるいは面的な素材(板や布類)や三次元的な素材(器や箱)においても道具の原点としての同じような見方ができるかもしれない。
 いずれにしても、磯貝恵三氏の試論は、道具を形態から分類した原理的考察の契機として秀逸。とても刺激を受けた。
 形態からの考察の他にも、道具を機能や働きから考察するとどうなるか。
 さらにアフォーダンス論から道具を原理的に考察するとどうか。

2.小林繁樹氏の「オセアニアの贈り物交換活動の現代的意義」
 小林繁樹氏は国立民族学博物館の教授。
 オセアニアの贈物交換活動(クラ)はマリノフスキーが発見した。クラにおいては貝の装身具が交換される。この習慣は現在においても存続しているらしい。クラにおける貝の装身具は、資本主義経済システムにおける貨幣のようなもの。
 貝殻というモノにはパワー(力)が宿っている。装身具という道具には人を動かす力があるということだ。不思議だ。ここで松岡正剛さんの「言事物霊説」を思い出した。
 原始的交換活動においておもしろいのは、クラにおいては、社会システムと経済システムが渾然一体化しており、分化していないところ。オートポイエーシス理論でこれを解明できるかもしれない。

3.石崎有紀氏の「プラモデルパッケージの道具的性能」
 遅刻のためこれは聴けなかった。
 
4.面矢慎介氏の「米国における小型調理家電の過剰な発展」
 面矢氏は滋賀県立大学人間文化学部教授。
 1950年代の米国において、トースターやワッフルアイアン(ワッフル焼き器)などの小型調理家電が異常に開発・販売されてブームになった。その理由はなにか、が明かされる。
 ところで似たような現象は現代社会においても手を換え品を変えて陸続と継続されているのではないか。

5.草葺き屋根職人から何を学ぶか(山口大学、坪郷英彦)
 岡正雄の「民具研究は技術文化の研究に他ならない」という引用から始まる。
 広島の草葺き屋根職人のギルドのようなものがあったということ。さらに韓国の技術との関連性が興味深い。