口に運ぶ道具(石毛直道)

昨日は道具学会で行われた石毛直道氏の話(口に運ぶ道具)を聞きにいそいそと高田馬場まで。

生きているうちに石毛先生の肉声を聴くことができてよかった。こちらが先にくたばるかもかも知れないので・・・。今回石毛先生にお会いしてとても好きになってしまった。

石毛直道先生は1937年生まれだから現在76歳。民族学者で食文化論では世界的な権威。梅棹忠夫直系の文化人類学者であり、国立民族学博物館の元館長でもある。

石毛さんは世界中の食文化と技術文化をフィールドワークしつづけたタフな人類学者。酒とタバコをこよなく愛し「鉄の胃袋」を持つといわれている。たしかに眼光鋭く強靭な体躯をお持ちのようにお見受けした。



長年の友人だった小松左京さんは石毛さんのことを「大食軒酩酊」と命名したらしい。
http://ishige.syokubunka.or.jp/ishige/



今回の講演は食をめぐる道具の起源と民族による変遷について。


特に箸(はし)と匙(さじ)とナイフ・フォークをめぐる世界の食文化の違いの話がおもしろかった。


食べることと飲むことは人類の生活の根幹にかかわることであり、食の道具(口に運ぶ道具)という切り口から民族文化の相違を検証することは技術人類学的にたいへん有意義だと感じた講演でした。

なお、車正弘氏(九州産業大学)の「チャブ台」(関西以西では飯台という)の話もたいへんおもしろかったので後日紹介する予定。


【講義メモ】

以下、石毛直道講義メモ。

・日本で箸を共用しないこととケガレ意識の関係。

・箸の起源はピンセット型の箸(中国)ではない。

・東アジアの箸食文化の中でも日本の「先細り」の繊細な箸は他に類のない独特の技術文化。

・日本の箸使いのマナーは30以上あり。箸をエレガントに使うのが日本の食文化。

・日本では今後も箸とナイフ・フォークは共存するだろう。ごはんと味噌汁の食文化が無くならない限り・・・

・古代中国にもフォークがあった。

・石毛さんの知人(英国人)と結婚した日本女性の妻が夫に課した箸使い訓練法。椀にいれたピーナッツをひとつずつ漆塗りの箸で別の椀に移しかえる練習を毎日。

中国文明というものが東アジア全体を覆っていた、という認識(通説)は間違っている。

・日本は東洋文明(漢字文明)の「裏切り者」ではない。

・日本は中国文明支配下に入ったことは一度もないし、日本が儒教国家になったこともない。

・漢字文明(中国漢字文化圏)というけれど、日本はいち早く漢字文化圏から離脱して独自の文字文化(仮名文字の発明)を創造し、1000年前には世界にも類のない文学を創り出した(源氏物語)。

・日本料理にも独自性あり。

・日本は鎌倉以降、文よりも武を重んじた。武つまり機能性と実利の方の重要性に気付いていた。中国はこれと逆で、武よりも文(抽象的な思想)を上位においた。ここに大きな違いがある。
(これは「サムライニッポンー文と武の東洋史」(2003年)で展開した見解)

ナポリで発祥したスパゲッティの食べ方の話には驚いた。イタリアのナポリでは19世紀末まで、なんと手でスパゲッティを食べていたらしい。麺を指でつまんで持ち上げて上から口に落とし込む食べ方をしていたらしい(石毛直道「麺の文化史」)。

こんどこの伝統的な食べ方やってみよっと(・。・)ぷっ♪

●【豪快画像】伝統の「手づかみパスタ」に挑戦しよう!
http://matome.naver.jp/odai/2135408692332494901