奇跡の日本史(増田悦佐)

年の瀬の本屋さんで手にとってビリビリッと来た本。著者・増田悦佐(ますだ・えつすけ)さんのことはまったく知らなかった。一読、大いに啓発された。先日の「いま日本で起こっている本当のこと」にも目を見開かせられたが、この本こそは二度三度と精読されるべき「日本の秘密」を知るための基本書だ。

ヨーロッパ文明と日本を比較すると、欧州の歴史にあって日本になかったものが意外と多い。これら無かったものは、決してマイナスではなく、「無くて良かったもの」であること、そしてこの「ないない尽くし」によって、奇跡的に優雅で幸福な「花づな列島」の国・日本が生まれた。「奇跡の日本史」という書名が、この内容のすべてを表している。

われわれは、足りないものや無いものについては、なかなか認識することができないし想像力も働かない。増田氏は、豊富な事例を例示しながら、この「日本になかったもの」がいかにすばらしいことであったかを、血なまぐさい欧州の歴史と対比することによって、くっきりと浮き彫りにする。説得力がある。おもしろい。こんなにおもしろい話は高校時代の世界史でも教わらなかった。

・日本の都市には城壁や塔の文化が無かった。(だからこそ、自由でのびやかな社会が実現した。)

・日本には宗教戦争が無かった。

・日本には牛車はあっても戦車や馬車は無かった。(だからこそ、下層階級でも道ばたで子ども達が王様だった。そして、欧米のように極端な車社会化になることもなかった。)

・日本では重商主義がはやらなかった。(だからこそ、植民地化されなかった。)

・日本には公園がなかった。(だからこそ森を殺すこともなかった。)

「世界中見渡しても、こんなに優雅な文明を維持しながら、戦争や殺戮より平和な経済競争が優位を占める近代市民社会が成立するまで生き延びた国民は、ほかにいない。ところが、これだけ幸福な星の下に生まれた日本人が、自分たちはどんなに幸せな歴史を生きてきたのかということをほとんど知らない。」(同書4頁)

この本は、情緒的で薄っぺらな日本賛美論ではない。

ところで、この本の中で、外村直彦(とのむら・なおひこ)という文明史家の説を知ったのも大収穫だった。引用されていたこの外村氏の「添う文化と突く文化」という日本と欧州の造形様式の対比が非常におもしろい。技術人類学の観点からも興味深い造形様式論だ。速攻で外村直彦氏の著書をアマゾンの古本で5冊ほどゲット。この先生の比較文明論については後日紹介したい。

奇跡の日本史―「花づな列島」の恵みを言祝ぐ

奇跡の日本史―「花づな列島」の恵みを言祝ぐ