パワーエリートとジャパンハンドラーズの研究で活躍している中田安彦氏が、今回の福島原発事故と金融危機との類似性(同根性)について述べている。なるほど、納得。
http://amesei.exblog.jp/
(以下、部分転載)
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さて、今回の議題は、二回前の投稿でも指摘した日本の今後のエネルギー政策の根幹に関わる問題である。今、福島県の福島第一原発では自衛隊、消防、そして東京電力の協力会社(下請けや孫請け会社)の非正規雇用労働者たちによる必死の原子炉冷却作業、電源復旧作業が行われている。問題になっているのは、プルトニウムを装荷した「MOX燃料」を搭載した三号機である。プルサーマル計画というのは日本中の原発で発生した使用済み核燃料を再処理してMOX燃料に加工し、それを普通の原子炉(高速増殖炉ではない)で燃やす発電方式である。
このプルサーマルは日本が原発を動かした結果持ってしまう余分なプルトニウムを核開発に使わせないように発電用のMOX燃料に加工させようという国際社会(つまり、欧州IAEAとアメリカ)の要求と原子力産業の意向によるものである。アメリカは正力松太郎(読売新聞社主)を使って、日本に原子力発電を導入させようとした。これは当時、米ソ冷戦の時代であり、ソ連ではなくアメリカが日本のエネルギー政策をコントロールし、日本をソ連にたいする反共の防波堤にしたてあげるという戦略の一環だった。ここで日本の財界に原子力財界人というものが登場した。
その一例をあげれば、福島県に原発を誘致した渡部恒三・衆議院議員の支援者であった木川田一隆であり、その後継者とも言うべき、平岩外四であった。この電力ロビーに対してアメリカはゼネラル・エレクトリック社やウェスティングハウス社が原子力発電技術を日本の重電会社に教えた。だからアメリカによるおんぶに抱っこの形で日本の原子力産業が育成された。今回事故を起こした福島の原発はGEの技術であり、日本の技術ではない。日本の重電会社はアメリカがポンと与えてくれた新技術に舌なめずりしながら、それを少しだけ改良しただけである。日本という「猿の列島」ではこのような技術をオリジナルで作れるはずがない。属国は覇権国がこうだといったエネルギー政策を追従することでエネルギー安全保障を図っていくしかなかった。
ところが、これは前にも書いたことだが、起きるはずのない「震災原発事故」が二週間前に起きたのである。アメリカで金融核爆弾がサブプライム危機やでデリヴァティヴの破裂という形で破裂した3年後に今後は日本で「原子力発電バブル」という巨大なバブルが破裂した。これをアメリカの経済評論家のナシーム・ニコラス・タレブは「黒い白鳥」と呼んだ。もともと「金融工学」という怪しげな学問は、物理学や熱工学をモデルに設計されている。だからというわけではないだろうが、原子力発電の事故と金融工学の事故というものは非常に共通性があるのである。金融工学も原子力工学も、「まれに起こりうる」ことは想定して安全設計が行われているが、今回のように「100年に一度とか1000年に一度」というような事態は想定していない。だから、一見強固に見えたものが、設計側の想定外の「ブラックスワン」が起きるとどうしようもなくなる。
人間というものは愚かな存在で、2008年に我々がニューヨーク発で体験した「世界が一度終わった瞬間」の記憶をもうすでに忘れかけている。欧米の金融メディアを見るとたしかにレヴァレッジの比率は25倍というような往時のレベルから落ち着いているものの、今度は中央銀行がお札を擦り散らかして新興国にまでバブルを輸出している。今回の原子炉事故も、欧米のメディアを見ている海外の一般大衆からはすぐに忘れ去られていく危険性も大きい。
福島原発は、まだ最悪の事態には至っていない。いわゆる反原発運動をやっている人が本で書いている想定シナリオでは、原子炉が運転中に地震が起き、緊急停止しないでそのまま原子炉建屋やタービン建屋の危機の故障や配管の破断が起きて暴走するというものが想定されている。そのような「瞬間的に放射能や放射性物質が広範囲に速いスピードで拡散して、急性放射能症で日本人がバタバタと死んでいく」という事態にはなっていない。
ただ、このままだらだらと沈静化が手間取るようだと日本人全体の心が休まらないし、緩慢に外部に放射能がだらだらとすこしずつであるにしても流れていくということになる。だから2ヵ月後、3ヶ月後、福島原発が同じようなことをだらだらやっているようであると危ない、と私は判断する。放射性物質がどの程度の影響を環境や人体に与えているのかは、これも数年たたないとわからない。ただ、地震の前から日本の原発がある場所の近くでは甲状腺肥大や白血病の症状を患う人もいた、という。原発の排水が温かいために周辺の海では異様に大きな魚が釣れるということもよく知られている。放射能が私たちの健康に与える影響について、正直にわからないというしかない。これは難しいことなのだが、危機を煽りもせず、一方で冷静に心配するということが重要だと思う。
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(引用終わり)