いま日本経済で起きている本当のこと(増田悦佐)

増田悦佐(ますだえつすけ)氏の名著「奇跡の日本史」を正月休みに読んでから、この著者の本を買い集めている。

増田氏の本を読むと、これまでの常識がガラガラと崩れていく感じになる。この本は昨年の暮れに発行された新刊。(奇跡の日本史については、後日紹介したい。)

「日本経済は盤石である。そして、円高とデフレで日本経済はさらに強くなる。」これがこの本の結論である。

円高=悪、デフレ=悪という誤った信仰に日本のメディアや政財官界はマインドコントロールされている。この日本の常識・信仰が間違っていることを著者は、豊富な一次データと歴史的事実によって分かりやすく解説している。

たとえば、円高・悪玉論である。

円高は日本経済にとって良くないことだから円安に誘導しなければならない、という政府(米国?)とメデイアの圧力に屈して日銀が自国通貨の切り下げ(円売り・ドル買い介入)に踏み切った。しかしこれはうまくいっていない。税金の無駄遣いだ。自国通貨の価値を毀損して経済が改善されるはずがない、と増田氏は断言する。ではなぜ円高でも日本経済は大丈夫なのか?

日本は円高であっても良好な貿易収支構造が保持されるようになっているからだ。

つまり、以前(70年〜80年代)の日本は最終消費財の輸出が多かった。このような最終消費財はそのときどきの為替レートや消費者のきまぐれで輸出額が大幅に変動する。しかし、いまや、輸出品目の70%以上が資本財と中間財であり、これは海外のメーカーが生産工程で必ず使わなければならないモノだ。しかも日本の資本財や中間財は、他国が追随できないほど品質が良い。だから円高であろうとなかろうと日本製品を買わざるを得ない。

ちなみに、資本財とは、製品を作る過程で不可欠な金型、工作機械、工業用ロボット、半導体製造装置など。中間財とは、たとえば半導体製造に不可欠な、ボンディングワイヤ、フォト・レジスト、フォト・マスクなどの電子部材。これらの中間財は日本が圧倒的なシェアと高品質を維持している。いずれも人類の産業活動になくてはならない必須財。

これらの日本の資本財や中間財の高性能・高品質性は、未だ中国や韓国も追いつくことができない。なぜか。

日本の企業は、つねに研究開発していないと落伍する競争の世界に生きているからだ。これについては僕も日々の特許出願の仕事や発明打ち合わせの現場で実感している。

日本の研究開発費は、対GDP比で世界一である。2位の韓国もがんばっているが、絶対額では、韓国は未だトヨタ一社の研究開発費のレベルだ。

日本企業の強みは、製品の性能基準や製法が固まっている分野については後発国に生産を委譲し、改良改善の余地のある新分野を開拓することに成功していることにある、ということ、これこそが円高の影響をほとんど受けない貿易収支構造を確立している。

ではなぜ、円高→ドル買い介入へと、政府やメディアは声高に誘導しようとするのか。おそらく米国の圧力に反抗できないからではないか。この辺りにも日本が米国の属国であるという事実が如実にあらわれている、というのは思いすごしだろうか。

増田氏の主張は、薄っぺらで客観的根拠のない日本楽観論とは一線を画している。説得力のあるしっかりとした議論だと思う。

増田悦佐さんの本を読むと、あらためて日本に生まれてよかったと思う。ナショナリズムからではなく、心底、日本という国、国土、そして日本という国土で生活を営んでる人々が限りなくいとおしくなる。

いま日本経済で起きている本当のこと―円・ドル・ユーロ大波乱!

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