江戸文明シンポジウム

日本文明論シンポジウムを聞きに池袋の平成帝京大学まで。しかし、今日は寒い。

テーマは世界史の中の江戸文明。3時間半があっという間に過ぎた濃厚で充実したシンポジウムでした。


芳賀徹(パックス・トクガワーナの提唱者)
 今から20年ほど前に芳賀先生(当時は東大教授)の徳川ジャパンの話を聞いて以来ファン。いまだにとてもダンディーでエネルギッシュでステキな方だ。芭蕉の話がおもしろい。
 芭蕉は近代のシュールレアリスムをも超える現代詩人である。たとえば、「暑き日を海にいれたり最上川」(暑き日の海にいりたり最上川、とした場合との決定的違い)。そして「奥の細道」で芭蕉が本当にやろうとしたこと。
 田中儀右衛門(田中久重)の「からくり」そして万年時計から東芝へ至る技術知の流れに注目せよ。
 そして葛飾北斎司馬江漢荻生徂徠(おぎゅうそらい)。

石川英輔(江戸時代をエコロジーの観点から見直している)
 江戸時代の技術(たとえば合巻の印刷技術)は現在でも解明できないほど高度だ。
 教科書にいまだに「一揆」の話が出てくるのはアナクロニズム。これは階級闘争史観による偏見だ。
 江戸時代の農村や庶民は想像以上に豊かで秩序があり、そして人々は好奇心に満ちて親切だった。たとえば、女性や若い青年達が無一文でも日本国中を何年も旅することができた、そんな社会だった。
 石川さんは毎日、大量に買い込んだ江戸時代の書籍を読み込むのが日課。調べれば調べるほど江戸時代のもの凄さにたまげている。彼らはとんでもない人々であった。そして我々はかれらの子孫なのだ。
 石川英輔さんの兄は昆虫学者として有名な石川良輔氏。僕は石川良輔氏の本「うちのカメ」を読んでカメを飼い始めたのだ。

●金森敦子(新潟在住の作家で江戸時代の旅日記を研究している)
旅日記にみる江戸庶民の実情。金森敦子さんは江戸時代の旅日記を読み込んでいる。とてもおもしろいらしい。

関所やぶりの話。1700年代から女性たちも日本中をあちこち旅し始める。全国に53カ所ある関所を通過するとき彼女たちはどうしていたか。旅日記を読み解き、彼女たちの実態に迫る。迫真のドキュメンタリー。

技術史的におもしろいと思ったのは、旅人たちが旅の途上で出会った新規なもの、たとえば農具や稲の品種を持ち帰り、それば技術伝搬に寄与したのではないか、という仮設。おもしろい。

江戸時代に日本の奥州や北部を旅したイザドラ・バードの話。

●鬼頭宏(文明としての江戸システムを人口論で読み解く上智大学教授)
百姓一揆なんてものは、100年に一度どこかの村で起こった事件、といった感じのものだ。食えないからという理由ではなく、労働組合春闘のようなものだった。農民が虐げられていたから一揆が頻発した、なんて教科書に書くのはまったくおかしい。アナクロニズムだ。江戸時代はそんな社会ではなかったのだ。

徳川幕府による260年の平和な時代。世界史的にみても奇跡的な時代があった。