英国からケヴィン・コーツ(KEVIN COATES)の本が届いた。厚さ3センチくらいの布張りの美しい本。写真は鮮明で美しい。そしてとにかく重い。
宝飾史家の山口遼氏の本でケヴィン・コーツのことを知り、興味をもった。山口遼氏によれば、ケヴィン・コーツは21世紀のルネ・ラリックと評されるジュエリーの常識を覆した鬼才。1950年生まれの英国人。本業は音楽家。7歳からヴァイオリンを習い、BBCなどで音楽演奏活動を続けるかたわら、1973年から76年にかけて英国王立工芸学校でジュエリー工芸を学び、1978年ころからジュエリーを自宅で本格的に作り始める。
コーツ氏は単なるデザイナーではなく、すべての工程を自ら行うジュエリー作家であり職人。デザインだけおこして実作は職人にやらせるという所謂ジュエリーデザイナーではない。デザイン、素材の選定、彫金、鋳造などの金属加工、象牙の彫刻、七宝、作品を入れる箱作りやその背景の絵などすべてを一人でコツコツ気の向くままやるタイプ。寡作で売るための発想は皆無。
山口遼氏はケヴィン・コーツの作品を何点か持っているらしい。うらやましい。彼の作品を待っている人の方が作品の数よりも多い。だからほとんど手に入れることは困難。
ケヴィン・コーツのジュエリー作品のすべては、西欧世界の神話、伝承、文学、音楽にその基礎を置いているので、その背景の深い意味を探ると作品の理解がいっそう深まるという。
ケヴィン・コーツの作品を見ていると、何かに似ているとずーっと思っていた。たぶんこれは日本の根付に似ているのではないか。神話や伝承を題材にしているところや諧謔やユーモアや「ひねり」の味が江戸時代の根付にとても似ている。これを素材を変えてジュエリー作品にまで昇華させているところがすごい。ケヴィン・コーツは英国版根付作家だったのだ。ヨーロッパが生んだ今世紀最大の根付作家。と言ったら山口先生に怒られるかも。