超訳般若心経(苫米地英人)

先日、被災地に近いところに住んでいる友人からメールをもらった。

今回の震災、特に原発問題によって、経営する事業にも甚大な影響を受けており大変とのこと。そして、最近は般若心経を勉強しているとも書き添えてあった。

般若心経はずいぶん昔に誰かの解説本を読んだ記憶があるけれど思い出せない。そこで苫米地英人氏の般若心経に関する新刊が出ていたので読んでみた。

このカバー写真を見て引いてしまう人がいるかもしれないけれど、内容は斬新かつ説得力のあるものだった。彼独自の解釈が盛り込まれている。

般若心経の歴史的由来に関する驚くべき仮説。そして、最後のガテー、ガテー・・・という意味不明のマントラの部分はシュメール語起源であるという仮説は興味深い。シュメール文明はメソポタミアで最も古い文明と言われている。シュメール→インド(中国)という文明の流れを跡づけるものか。

特にこの本では釈迦の教えのキモである「空」の解釈がすぐれていると思った。

苫米地氏は、色(存在、有)と無(非存在)とを対立概念とし、空は有と無を包摂する概念だという。この「空は無と有の双方を包摂する(包含する)」というところが重要。そのため般若心経は少し書き直すべきだともいう。

「空」とは空っぽ(emptiness)のことでは断じてなく、むしろあらゆるものごとが充実した状態(fullness)でありダイナミックな概念であるという。(そういえば昔、空を素粒子論的に解釈する物理学者がいたなあ。)

空を別の言葉で言うと「縁起」。一つの物事には、ありとあらゆるものごとが関係している、ダイナミックなネットワーク、このことを表す言葉が「縁起」の概念。

空を何もない空っぽの状態だと解釈すると、この世は本質的にすべてむなしいことになり、厭世思想と虚無主義ニヒリズム)に行き着く。

空思想の誤った解釈によって、日本の仏教はニヒリズムと厭世思想に導かれてしまった。

今回の震災についても日本人の無常観で納得する雰囲気さえある。

現在、日本人全体(特に関東以北)が今回の311のショックから立ち直れないでいるように思える。表向きでは、「がんばろう」「絆」「日本は必ず復興する」などと言っても、正直なところ心底ショックを受けて未だ放心状態の人が多いのではないかと思う。ぼくもずっと放心状態で311の14:46で時計は止まったまま。なさけないけれど、どうしようもない。

このようなときだからこそ、初心に戻って、お釈迦さんの教えを勉強することも大切かもしれない。

いま日本を覆っている虚無主義と厭世思想を払拭するためにも「空の思想」を勉強しておきたい。


ところで、苫米地氏については毀誉褒貶が激しく世間で彼の評価は定着していないかもしれない。かなりユニークでハチャメチャなところが誤解されているかもしれない。輿水氏は「苫米地氏は裏社会の広告塔」などと言っておられましたが、その根拠は、彼が三菱地所時代にNYCのロックフェラービルの買収に関わったときにデイヴィッド・ロックフェラーと関係があった、というもの。これは苫米地氏本人が自著に書いているので本当のことだと思いますが、そのことをもって苫米地氏を悪いやつだと断定してしまうのも何だか短絡的な気もする。もしそうであれば、デイヴィッド・ロックフェラーと何らかのビジネス関係を持った人々はすべて裏社会の人間になってします。苫米地氏はロックフェラーにまんまとだまされている可能性だってあるかも。

ぼくとしては、彼の思想を彼自身の著作の内容から判断することにし、しばらくは苫米地本の追っかけを続けるつもりだ。