近藤誠先生にがっかり

「癌と闘うな」で有名な慶応大学の近藤誠先生(慶応大学医学部講師)の日刊ゲンダイの記事を読みました。ちょっとがっかり。

おそらく長崎大学の山内俊一教授と高村昇教授や稲先生の「閾(しきい)値仮説」を批判する記事と思われます。

近藤先生は、「閾値派」は少数派であり、多数派である「直線派」が正しいと言っています。その根拠は国際機関がそう言っているから、というものです。多数派であり、「権威」のある国際機関の見解だから正しい、という意見に聞こえます。この国際機関のデータを詳細に自ら検証した上での結論ではないように思われます。癌に関する権威と闘っている近藤先生とは思えない意見です。

さらに、低線量率放射性の身体に対するデータがほとんど無いことを認めながら、閾値派の見解を「嘘っぱち」と断定しているところがすごい。さらに、閾値仮説は、「放射線の毒性を軽く見せたい原発推進派」の見解であると議論を矮小化しているところも理解不能です。ポイントをずらしています。放射線の人体に対する影響の議論を、原発推進派と反原発派の議論にスリ替えるという最近流行しているおなじみの議論。

稲恭宏先生の論文の実験データはすべてでっち上げで嘘っぱちだと言いたいわけですね。少数派の意見は信用できない、ということか。

どうしたのでしょうか、近藤先生。癌という病気に対する公式の「権威のある見解」に対して断固として、「それはおかしい」と言った人が、放射能に関しては「権威のある国際機関」の見解やデータの方が正しいと断定するのですか・・・・。がっかりです。もっと説得力のある見解であればぼくも納得するのですが。ちょっと残念。

以下、日刊ゲンダイの記事から転載。

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近藤誠・慶大医学部講師が緊急寄稿「100ミリシーベルト以下の被曝量なら安心」はウソっぱち!(2011年4月7日 掲載)

 福島第1原発事故に関し、マスコミに登場する放射線専門家は安全を強調するが、本当なのか?日刊ゲンダイ本紙で「やっぱり、がんと闘うな!」を連載中の慶応大学医学部講師(放射線治療科)の近藤誠氏は、「ウソやごまかしが多すぎる」と断じる。

● 数百万人が低線量被曝すれば、数万人ががん死するかもしれない
 私はどんな患者さんにも、がん告知をします。患者さんは事実を知ったうえで、その後の行動を選択する自由があるからです。
 人心を安定させるため、政治家は時に事実を隠すことがあるのでしょうが、それは医師や科学者の“仕事”ではありません。
 そんな私が“これはひどい”と思うのは「1年間の被曝(ひばく)量100ミリシーベルト(mSv)以下なら安全」という放射線専門家たちの発言です。
 これはまったくのウソっぱちです。
 たとえ原子力推進派であっても専門家ならせめて「100mSv以上の被曝と発がんは明確な相関関係にあるが、100mSv以下の低線量被曝のデータは少なく、いまのところ発がんリスクはゼロでなく、正確に分からない」と言うべきです。
 放射線による健康被害は、被曝後数週間以内に症状が表れる「急性障害」と、数カ月あるいは数十年先に表れる「晩発性障害」があります。
 低線量被曝による健康被害は、「晩発性障害」を引き起こしやすく、短期の追跡調査では表れにくい。しかも、線量計で被曝線量を測定する人はまずいないので、データはほとんどありません。
 だからといって安全というのはウソです。
 そもそも100mSv以下の低線量被曝による発がんリスクには、2つの有力な仮説があります。
 すなわち、(1)被曝線量が100mSv以下だと発がんリスクはほとんどないが、それを超えると急上昇する「しきい値仮説」、(2)100mSv以下でも被曝線量と発がんリスクが増大する「直線仮説」です。
 (1)は放射線の毒性を軽く見せたい原発やがんCT検診の推進派が、(2)はその反対派や中間派がそれぞれ支持してきました。
 ところが、いまは国際的に権威のある、米国科学アカデミーの委員会(BEIR)や国際放射線防護委員会(ICRP)らが支持するなど、「直線仮説」が有力です。
 米国は1950年から広島や長崎の被爆者9万人(近距離被爆者5万人、遠距離被爆者4万人)と非被爆者3万人を対象に寿命調査をしていますが、1980年代に入り、低線量被曝であってもがんになる確率が高くなることが分かったからです。
 しかも05年に英国の有力医学雑誌に掲載された15カ国の原発労働者40万人を追跡調査したリポートでは、50mSv以下の被曝線量であっても発がんリスクが高まると報告されたのです。
 それでも「しきい値仮説」を支持する人は、「人間には放射線被曝による傷を治す能力がある」「低被曝は細胞を刺激し、かえって健康になる」などと主張しますが、それを信じる専門家は少数です。
 放射線の専門家は当然、こうした事実を知っています。「低線量被曝でも発がんの危険性はある」と明言すべきなのです。
 なかには低線量被曝の危険を認めながらも、「100人の死者のうち被曝によるがん死が1人増える程度」と、被害を軽く見せようと発言する放射線の専門家がいます。しかし、低線量の被曝者が数百万人に上ると、数万人ががん死するかもしれないのです。
 いまこそ、放射線の専門家は低線量被曝のリスクを明らかにし、しっかりした対策を講じるべきではないでしょうか?

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(引用終わり)