伊勢史郎に刺激されて

 試験待ちの間に中学の図書館にて考えたこと。現生人類の進化の過程で2つのステージがあったのではないか。第1に社会システムが暗黙知の駆動源になった段階。第2に心システムが暗黙知発動の駆動源になった段階。第1のフェーズでは暗黙知駆動メカニズムは社会システムから供給されたと考えられないか。つまり、社会システムの側が外部から快感レバーを用意し、社会システムが個体にrewardを与える段階があった。そして、この段階はヴィゴツキーの外言の段階に対応している。この段階では未だ脳内にA−10神経の無随化は起こってはいない。この段階がおそらく数10万年前から3万年前までの間の時期に相当する。いわば外部(社会システム)が個体の快感レバーを押す段階。これはあたかも人間が用意した快感レバー装置の中でレバーを押し続けるラットのような状況である。コミュニケーションの産出の継続的作動が生じて社会システムが形成されたということ。このような特異なヒトにのみ生じたコミュニケーションシステムはいったいどのようにして形成されたのか。これはおそらく、伊勢の言う水生類人猿説で説明できる。つまり、水棲の段階で体毛を喪失したことから音声のよる毛づくろいが始まり、音声コミュニケーションが常態化した。音声やゴシップをやりとりすることによって群の結束がつよくなりより安全で快適な群環境がrewardとして社会システムから継続的に提供される。つまり、社会システムが快感レバー装置を用意し、レバーを押し続けることを保証している。この段階では未だ心的システムは生まれていない。したがって、志向性や能動性(ポランニー)や欲動(丸山圭三郎)も生まれていない。よって、道具性(木村大治)や認知的流動(ミズン)も生じていない。
 伊勢によれば、音声コミュニケーションが拡大し発達しヒト社会が地球上に拡散し広がっていくにつれて、同一種内部でのコンフリクトが生じ始め、種内部の選択圧が大きくなり、これが3万年まえのスイッチオン(認知的流動)をもたらした。つまり異なる種の間の軋轢よりも同一種内部での抗争がスイッチオンの原因ではないかというのだ。私の仮説では、このとき心的システムが分化した。そして、生理学的にいえば、個体の脳内に自前の快感レバー装置ができあがったということだ。自前だからいつでもどこでも自分だけでレバーを好きなときに押すことができる。ホロビンによればこのとき分裂病の遺伝子が活性化したということか。ただし、私の仮説で重要なことは、分化した心的システムと社会システムとの相互作用によって自己意識が生じたということである。これによって志向性や道具性や内言が生まれた。
 では、技術の起源の考察において、上で述べた2つのフェーズは、どのように説明できるのだろうか。水生類人猿説あるいは骨主食ニッチ説のいずれにおいても、直立二足歩行によって手の道具使用が常態化した。石器使用も常態化した。石器のやりとり遊びが始まった。石器という人工物はどのように働いたか。