コロナ×インフルの「ツインデミック」は起こらない?






 医師で医療経済ジャーナリストの森田洋之氏も、集団免疫の獲得や、ウイルスの弱毒化の可能性に言及するが、そのうえで、感染者数を気にすることにいかに問題があるかを説く。

「これまでも風邪やインフルエンザをはじめ、さまざまな感染症が流行してきましたが、全世界的に無症状の人まで検査を拡大したことはありません。そこまで検査を広げるのは人類始まって以来です。インフルエンザだって、無症状者にまで検査対象を広げていたら、莫大な感染者数に達したかもしれません。それに、PCR検査には設定値があって、設定次第ではごく微量のウイルスでも陽性と判定されます。感染者数とはそれくらいいい加減で、指標として用いるべき数字ではないのです」

 指標として肝心なのは、

「あくまでも死亡者数。ヨーロッパでは、たしかに微増してはいますが、春に激増したほどの勢いはありません。そして大事なことは、理由はともかく、統計的に死亡者数が増えていないという事実です」

 この事実は日本においていっそう重要だ。厚生労働省発表の人口動態統計(速報値)で、今年5月の全国の死亡者数は昨年同月より3878人少なく、6月も1931人減った、と以前書いた。7月の数字が注目されたが、やはり昨年より1745人少なく、1月から7月までの死亡者の総数も、昨年より1万7998人も少ない79万5807人にとどまる。いまは死亡者が増えて当然の超高齢社会である。森田氏が続ける。

「死亡者数が例年とくらべて減少している、という事実は、今後の新型コロナ対策を考えるにあたり非常に重要なはずなのに、あまり報道されません。新型コロナで恐怖にかられ、大騒ぎをしたのに、死亡者数は増えるどころか少し減っている、という結果をなぜ無視するのでしょうか。新型コロナに感染した人は、約1700人が亡くなりましたが、大半は命の終わりが近かった高齢者です。高齢者の命と若い人の命の軽重は測れるものではありませんが、若い人が自殺というかたちで声なき声を上げていることは、統計に表れている。今後の政策を考えるうえで、その点に注目すべきだと思います」

先の宮沢准教授も、

「もし今年、新型コロナが流行したら、インフルエンザなどほかのウイルスは流行しないのではないでしょうか。一般に二つのウイルス性感染症が同時に流行することはないのです。今年はマスクを着用し手洗いを徹底するなど、みな気をつけているので、インフルエンザも流行らないと思う」

 と、ツインデミックの可能性を否定する。仮にインフルエンザがそれなりに流行したとしても、対処できると説くのは、前出の唐木氏である。

「インフルエンザは例年、冬の2、3カ月の間に国内で1千万人ほどの感染者が出ますが、医療崩壊は起こりません。対策が普通の感染症に対するものの範囲にとどまっているからです。一方、新型コロナウイルスの感染者数は、まだ10万人にも届きませんが、仮に1千万人に達しても、インフルエンザと同じ対策にとどめているかぎり問題ありません。ところが、指定感染症2類以上にしたから、入院や隔離の必要が生じ、大変なことになっているのです。過剰な対策をするから、医療機関に負荷がかかるのであって、インフルエンザと同じ5類相当に変更すれば、そもそも同時流行を心配する必要もなくなります」