ネオコンやイスラエルと手を組んできたサウジがロシアに接近、米国でもネオコン戦略に反する動き(櫻井ジャーナル)

櫻井ジャーナルの昨日の記事にちょっといいニュースがあったので転載しておきます。

世界の潮目がいい方向に流れ始めているのかもしれません。


ネオコンイスラエルと手を組んできたサウジがロシアに接近、米国でもネオコン戦略に反する動き
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201506230000/

 今月、ロシアのサンクトペテルブルクでは国際経済フォーラムが開かれ、天然ガスのパイプラインを建設することでロシアとギリシャは合意したが、それ以上に注目されているのがサウジアラビアの動き。国防大臣、外務大臣、石油大臣が参加してウラジミル・プーチン露大統領と会談したのだ。ここにきてサウジアラビアに関する情報が流れ始めたのも状況の変化を感じさせる。

 国防大臣のムハンマド・ビン・サルマンはサルマン・ビン・アブドルアジズ・アル・サウド国王の息子で、プーチン大統領サウジアラビアへ招待したところ快諾され、プーチンは国王をロシアへ招待し、やはり快諾された。それだけでなく、ここ数週間にわたってサウジアラビア国王プーチン大統領と電話で連絡を取り合っていたという。

 サルマン国王は王室の中で最もアル・カイダやIS(イラクとレバントのイスラム首長国。ISIS、ISIL、IEIL、ダーイシュとも表記)と関係が深いとされているが、実際に工作へ関与しているのはバンダル・ビン・スルタンやタルキ・アル-ファイサル(タルキ・ビン・ファイサル・アル・サウド)、あるいはアブドゥル・ラーマン・アル・ファイサルが中心だと見られている。

 バンダル・ビン・スルタンは総合情報庁長官だった2013年7月31日にモスクワを秘密裏に訪問、プーチン大統領に対し、チェチェンイスラム武装グループは彼の指揮下にあり、ソチで開かれる冬季オリンピックを守ると保証できる、つまりオリンピック会場を攻撃することが可能だと脅している。

 それに対し、ロシア政府はオリンピック開催に合わせ、ソチの周辺で特殊部隊にイスラムスンニ派武装集団(サラフィーヤ/ワッハーブ派)に対する掃討作戦を展開したようだが、アメリカ/NATOウクライナでクーデターを仕掛け、オリンピックが閉幕した昨年2月23日に憲法の規定を全く無視した形でビクトル・ヤヌコビッチ大統領を解任して傀儡政権を成立させた。

 ファイサル・ビン・アブドルアジズ・アル・サウド国王が甥に射殺された1975年からサウジアラビアは親米色を強め、ズビグネフ・ブレジンスキーアフガニスタンソ連軍を引きずり込み、自分たちで組織したイスラム武装勢力と戦わせるという秘密工作を始めた時には、戦闘員と資金を提供している。

 その戦闘員をCIAなどが訓練、アメリカは兵器を提供するが、その中からアル・カイダは生まれる。ロビン・クック元英外相も指摘しているように、CIAに雇われて訓練を受けた数千人におよぶ「ムジャヒディン」のコンピュータ・ファイルなのだ。ちなみに、アル・カイダとはアラビア語で「ベース」を意味、「データベース」という意味でも使われる。

 ソ連軍がアフガニスタンから撤退して間もない1991年にソ連は消滅、ポール・ウォルフォウィッツ国防次官はその年にイラク、シリア、イランを殲滅すると話していた。これはヨーロッパ連合軍(現在のNATO作戦連合軍)の最高司令官だったウェズリー・クラークの話だ。

 ジョージ・H・W・ブッシュ政権の国防総省はリチャード・チェイニー国防長官やウォルフォウィッツ次官などネオコンが主導権を握っていた。アメリカが「唯一の超大国」になったと思い込んだその人脈は1992年に世界制覇プロジェクトDPGを作成、その中で潜在的ライバル、つまり西ヨーロッパ、東アジア、旧ソ連圏、南西アジアを潰すという方針を示している。

 ソ連を消滅させる上で重要な役割を果たしたボリス・エリツィンはロシアの大統領になるが、その政権は西側の傀儡。新自由主義に基づく政策を推進、規制緩和や私有化という名目で国民の財産を一部の人間が不公正な手段で手に入れて巨万の富を築き、オリガルヒと呼ばれるようになる。

 ロシアを西側の属国にしたアメリカの支配層が目を東アジアに向けるのは自然のこと。そこでDPGに基づいてネオコンシンクタンクPNACが2000年に発表した『米国防の再構築』では東アジア、つまり中国を重視している。その報告書を作成したメンバーが2001年に始まるジョージ・W・ブッシュ政権で主導権を握り、大統領は中国脅威論を叫ぶのは自然の流れ。この年にはネオコンのプランを始動させる出来事も起こっている。9月11日にニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃されたのである。

 2000年にエリツィンの後継者としてロシアの大統領になったプーチンは西側の予想に反し、政治をオリガルヒから政府が取り戻し、ロシアを再独立させる。それでもエリツィン時代に弱体化したロシアをアメリカの支配層は過小評価していた。

 例えば、2006年にキール・リーバーとダリル・プレスはフォーリン・アフェアーズ誌(CFR/外交問題評議会が発行)にアメリカの好戦派がどのようにロシアを見ていたかを示す論文を書いたのだが、その中でアメリカはロシアと中国の長距離核兵器を第1撃で破壊できると主張している。先制核攻撃を仕掛ければ圧勝でき、アメリカは真の覇者になれるというわけだ。

 ロシアを軽く見ていたアメリカの支配層はイスラエルサウジアラビアと中東での工作を開始する。2003年にアメリカ政府はイラクを先制攻撃しているが、調査ジャーナリストのシーモア/ハーシュが2007年3月5日付けのニューヨーカー誌に書いた記事によると、その時点でシリア、イラン、そしてレバノンヒズボラに対する秘密工作を始めていた。シリアとイランはリビアと緊密な関係にあり、リビアへ矛先が向くのも必然だった。

 その後、アメリカ(ネオコン)、イスラエルサウジアラビア三国同盟を中心とする勢力は中東やアフリカだけでなくウクライナでも戦乱を広げてきたが、その構図が崩れてきた可能性がある。

 そうした動きを象徴するものとして、2014年10月に国防総省系のシンクタンクRANDコーポレーションが示した見通しを指摘する人がいる。シリアのバシャール・アル・アサド政権を倒れると、アメリカやイスラエルにとって最悪のことが起こる可能性があると主張したのだ。

 アメリカ軍の中枢、統合参謀本部ではブッシュ・ジュニア政権のイラク先制攻撃プランに反対するスタッフが1年にわたって抵抗、シリアを攻撃しようとしたときは辞任の意向を示す人も少なくなかったという。

 バラク・オバマ政権は今年2月、アサド政権を倒すのではなく、中東の独裁政権イスラエルの軍事同盟を強化するという方針を示しているが、別の主張もある。軍需産業はアサドとIS、両方を倒せと主張しているが、戦争の拡大は彼らにとってビジネスチャンスであり、戦争が拡大して人類が死滅することなど彼らにとって大した問題ではない。ネオコンジョン・マケインイスラエルと同じで、アサド体制を倒すためにISなりアル・カイダなりを支援すべきだとしている。ISを倒すためにシリア政府と手を組むべきだという意見もあるようだが、多数派ではないようで、これまで広めてきた嘘を何とかするという厄介な問題もある。

 そうした中、サウジアラビアがロシアへ接近しているのは三国同盟の限界を感じたからなのか、シリアとロシアを分離しようとしているのか、別の思惑があるのかは不明。アメリカとイランとの話し合いが影響していると見る人もいる。三国同盟を成立させているのはイラン。この国の現体制を倒したいということで成り立っていたわけで、アメリカとイランとの関係が改善されると状況は大きく変わる。アメリカでイスラエルネオコンの政策が自分たちの「国益」に反していると感じている人が増えたなら、追い詰められたイスラエルが「狂犬」になる可能性もある。そうした中、ネオコンを中心とする好戦派の命令に従い、戦争に参加すると宣言しようとしている安倍晋三政権が正気だとは到底、言えない。