日本は笹井芳樹という再生医療研究のエース、たぐいまれな天才科学者を失った



日本は、否、世界は、たぐいまれな天才科学者を失った。再生医療研究のエース。ノーベル賞級の学者を失った。この代償は大きい。

笹井芳樹さんは兵庫県出身ですが、愛知県で最難関の名門・愛知県旭丘高校から京都大学医学部に入学され、最初は医学を志した。卒業後、神戸市立中央市民病院で内科医として働いていた。彼の親族の多くが医学系だったのがきっかけだったらしい。

しかし、生命の神秘を解明したいという願望絶ちがたく、1988年に京都大学大学院医学研究科に再入学。生物学を基礎から勉強しなおす。

笹井さんが生命現象の解明に興味をもったのは、在学中に岡田節人(おかだ・ときんど)先生の発生学の講義を聴いたのがきっかけだったらしい。

なるほど、よくわかる。

岡田 節人(おかだ ときんど、1927年2月4日 - )は、発生生物学者JT生命誌研究館名誉顧問、京都大学名誉教授。理学博士。兵庫県伊丹市出身。伊丹市名誉市民。京都市名誉市民。
一般向けの著書も意欲的に書いており、クラシック音楽好きで広く知られている。息子岡田暁生音楽学研究で著名な学者となっている。父は国文学者岡田利兵衞で、元伊丹市長でもあった。父利兵衞が地元に没後設立した財団法人「柿衞文庫」理事・名誉館長でもある。四方田犬彦の母方の遠縁にあたる。

強烈かつ魅力的な個性のこの発生生物学者のことは私もよく覚えています。学生時代、岡田節人岩波新書「試験管のなかの生命」を読んで感動した記憶がある。


(たしか、マウスの心筋細胞をばらばらにして試験管の中で培養していると、いつの間にか細胞同士が自己組織化して心臓の鼓動のリズムで拍動しはじめるという不思議な話に魅せられた記憶がある。)



笹井さんは、生命現象の解明をライフワークと定め、臨床医から生物学者へ転身。

その後はメキメキと頭角を現し、世界の最先端の研究者として業績を積む。

1993年から米国に渡りカリフォルニア大学(UCLA)にて数々の画期的な研究により生物学界で注目される。

●神経誘導因子の研究
1993年にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部客員研究員となり、シュペーマン形成体から分泌される「神経誘導因子」の分子実体とその作用機構の研究を開始。わずか一月程でコーディン遺伝子を作るクローンを発見し、更にこのコーディンがシュペーマン形成体から分泌される発生シグナル物質であること、神経以外の他の細胞へ分化するのを抑制するシグナルを出すことを発見した。
シュペーマン形成体は1924年に発見されて以降、その作用の仕組みが明らかになっていなかったが、笹井によって解決された。帰国後の1996年には京都大学医学部助教授(生体情報科学講座)に就任し、神経分化を決定するスイッチ因子のカスケードの研究に従事。1998年には京都大学再生医科学研究所教授に36歳の若さで就任、ES細胞から選択的に神経細胞を分化させる系を確立した。
また、理化学研究所時代にはアフリカツメガエルの初期胚を使って指令因子と相似形について研究を実施。2013年には、シズルドの濃度でコーディンが阻害され、コーディンの濃度勾配が調整されること、胚の大きさとシズルドの濃度が比例することによって相似形が維持されることを発表している。

●幹細胞とその自己組織化研究
1998年頃から、自己組織化研究を本格化させ、10年程かけて自己組織化の実験系の確立に取り組む。なお、この間、2000年理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(CDB:Center for Developmental Biology)において、グループディレクター兼任。翌年には専任となった。
この過程で、2005年には高橋政代ES細胞による網膜の分化誘導に成功し、2006年にはES細胞から視床下部前駆細胞を分化誘導させることに成功。マウスES細胞から外胚葉へ分化誘導する遺伝子XFDL156を発見し、2008年のセル誌に発表している。
また、2007年にはES細胞の大量培養法の開発や、神経系細胞の効率的な作成を発表。ES細胞の培養方法においてバラバラにしたヒトES細胞の死が問題になるが、笹井のチームはRhoキナーゼ(ROCK)というリン酸化酵素の活性化が原因であることを発見。Rhoキナーゼ阻害剤(ROCK-Inhibitor)を培養液に添加することにより、ES培養を大量培養することに成功している(従来1%の生存確率が27%に向上)。
更に2011年4月7日付の英科学誌『ネイチャー』にマウスのES細胞から網膜全体を作ることに成功したことを発表、ES細胞から網膜を立体的に作ったのは世界初の試みであった。また、2012年には様々なホルモンを分泌する脳下垂体についても、立体的な形成に成功している。
これら一連の研究により、2009年〜2012年にかけて文部科学大臣表彰、大阪科学賞、井上学術賞、塚原仲晃記念賞、山崎貞一賞、武田医学賞、等を受賞。2013年のインタビューでは「細胞を分化誘導することを考える時代はすでに終焉を迎えています。いまは、組織を創り出すことを考える時代に入っていると思います。」と述べ、ゲノム編集技術による将来展望も語っていた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%B9%E4%BA%95%E8%8A%B3%E6%A8%B9


NHKよ、日本のマスメディアよ、誰からの指令かは知らないが、このようなたぐいまれなすぐれた研究者を闇に葬った罪は重いぞ!



以下のインタビューを読めば、笹井さんが魅力的で優れた科学者であったことがわかります。


あらためて、笹井さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

合掌。


(小保方さんはいま絶望の底で苦しんでいると思いますが、是非とも持ちこたえて頑張ってほしい。今は涙が涸れ尽くされるまで泣いてください。)



http://www.jst.go.jp/ips-trend/column/interview/13/no01.html
●インタビュー『この人に聞く』
<脳に関連する組織を立体的につくる>

笹井 芳樹 氏
2010年代に入り、網膜や脳下垂体など、神経や脳に関連する組織の立体形成が次々と実現している。成果を上げているのは、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)器官発生研究グループディレクターの笹井芳樹さんだ。笹井さんは、複雑で精緻な脳の構造を「自己組織化」というアプローチで解明してきた。実現間近になってきた網膜再生の臨床応用にも笹井さんたちの研究が生きる。個体形成の原理を追究する発生学は次の時代に向かって走り始めている。

聞き手:
脳という器官や、それをつくる神経という組織に視点を当てて、発生のしかたなどを基礎科学的なアプローチで研究してきました。脳というものをどのように見てきましたか。

笹井:
脳とは不思議な器官だと思い続けてきました。複雑で精緻で、わからないことだらけです。
かねてから遺伝子解析などの先端研究で脳のしくみの解明が進んできました。私自身も、京都大学の中西重忠先生の研究室にいた頃から、脳を見てきました。しかし、脳にある受容体や神経伝達物質などの働きがわかればわかるほど、その機能も構造も複雑だということがわかってきます。「脳って不思議だなぁ」という思いが、私が研究を進める動機として常にあります。
聞き手:
現在の研究は、ES細胞を使って成果を上げています。ES細胞に注目し、研究に使うようになったきっかけはどんなものでしたか。

笹井:
私が京都大学に入学したのは1980年。その1年後には、マウスES細胞がすでにつくられていましたので、学生時代からその存在はもちろん知っていました。
一方、私が実験対象として扱っていたのは、アフリカツメガエルです。このモデル動物は、初期の神経分化制御機構を解析するのにとても優れています。1993年から96年にかけてカリフォルニア大学(UCLA)医学部に留学していたときに、研究プロジェクトの中でアフリカツメガエルから、「Chordin」という神経誘導因子を単離することができました。Chordinは、初期胚のシュペーマン形成体という部分から分泌され、外胚葉に働きかけて神経細胞の前段階となる神経前駆細胞を分化誘導します。この研究は予定どおりに進みました。その後、京都大学に戻ってきてから、取り組んだのは主に2つのことです。
1つは、引き続きアフリカツメガエルを使って、今度はChordinから誘導された神経前駆細胞からどのように複雑な脳ができていくのか、そのパターン形成を調べていったのです。
もう1つは、発見したChordinによって神経ができていくしくみを、哺乳類を用いて観察することでした。この研究で使ったのが、マウスのES細胞です。ES細胞は、初期胚の「増えていく」という特徴をよく反映しています。それに、いわばまっさらな均一状態から分化誘導が始まっていくため、観察に適しています。ES細胞に対して「キレのよい細胞」という印象をもちました。
その後は、ES細胞から神経前駆細胞を誘導する研究を行いました。そもそも、脳はどのようにできるのかという原理の解明を目指していたため、パターン形成を観察するのにES細胞が使えると考えました。

聞き手:
ES細胞などの幹細胞から、望みの細胞を分化誘導する研究で成果を上げていったのですね。

笹井:
2000年から2002年頃にかけて、マウスやサルのES細胞からドーパミンを分泌する神経細胞や、網膜にシート状に層をなす色素上皮細胞を分化誘導しました。これらの細胞は形成しやすかったからです。それに、これらの細胞が分化誘導されたことを示すマーカーもすでにありました。
一方で、例えば脳の視床下部を分化誘導するようなことは難しかったですね。関連する前例的研究に乏しく、マーカーを使うこともできなかったからです。

聞き手:
笹井さんの研究では、「細胞の自己組織化」がキーワードとしてよく出てきます。この考えに思い当たったきっかけは何でしたか。

笹井:
個体の発生を研究する発生学には、京大の学部生時代に理学部教授だった岡田節人先生(現・京都大学名誉教授)の講義を聴くなどして興味をもっていました。
米国UCLAから帰国した1996年、私は「10年後に自分はどのようなことに取り組んでいるのがよいのだろうか」と考えを巡らせたのです。そこで、自己組織化という系のしくみを研究することになっていきました。何もないところから体の組織になっていく細胞がつくられるES細胞が使えるということも大きかったと思います。

聞き手:
そもそも、自己組織化とはどのようなものなのでしょうか。

笹井:
パターンのないところから自発的にパターンが形成されるということです。自己組織化の身近な例としてあげられるのは、雪の結晶です。多くの雪の結晶は六角形をしていますが、六角形のもとになるパターンがあったわけではありません。内因性プログラムによって、さまざまな六角形を表現しているのです。ほかにも、海岸などで見られる砂の風紋も、自己組織化の例といえます。
脳については、自然に複雑な構造が形成されていくパターンができているわけです。それは遺伝子の中で内因的なプログラムが働くことによって起きます。つまり、自己組織化があるということです。
アフリカツメガエルでの研究では、「アニマルキャップ細胞」を観察していました。両生類の初期胚に見られる細胞です。この未分化の多能性細胞から、外胚葉、中胚葉、内胚葉の細胞がつくられていくわけですが、実験ではなかなか細胞分化のしかたが均一になりません。多様なパターンが形成されてしまうのです。おそらく、アニマルキャップ細胞がパターン形成のためのシグナルが出ているのだろう、これが決めているにちがいない、と考えました。そして、XFDL156というタンパク質によって、神経や皮膚の前駆細胞である外胚葉が形成されていくことを特定しました。
脳のパターン形成シグナルとしては、他にも「ヘッジホッグ」というタンパク質があります。こうした物質が、大まかに脳がつくられていく方向性を決めるのですが、脳の複雑で精緻なしくみまでを決めているとは考えにくい。局所では、細胞同士の相互作用が働いているのではないかと考えました。

聞き手:
つまり、脳の各場所では、細胞同士が相互作用をして、複雑なしくみを自己組織化によってつくりあげているということですね。

笹井:
しかし、脳の自己組織化を観察しようにも、その実験系が確立されていませんでした。そこで、私は1998年から10年間かけて、実験系を構築してきたのです。言ってみればこの10年間は自己組織化を見るための系を確立するために費やした時間でした。その中で、副産物的な成果として、各種細胞の分化誘導に成功したというわけです。
聞き手:
自己組織化を見るために、具体的にはどのような実験系を開発したのですか。

笹井:
当初、ES細胞から神経細胞を試験管内でつくり出す技術として「SDIA法」(Stromal cell-Derived Inducing Activity)を開発しました。ES細胞を、培養条件を整えるための補助役となるフィーダー細胞を使って、望んでいる神経細胞に分化誘導させる方法です。SDIA法を使うことで、たいていの種類の神経細胞をつくることができました。しかし、大脳や間脳などの細胞をつくることはなかなかできませんでした。
SDIA法ではシャーレでES細胞を培養しますが、そもそも細胞がシャーレに貼り付くのは細胞にとっては異常な状態です。それは2次元の世界であり、3次元に対する自由度がありません。
そこで、SDIA法とは異なる方法で、より効率よく神経細胞を分化誘導する方法を考えることになりました。それは、フィーダー細胞が存在する環境で、無血清培養液と浮遊凝集塊培養を組み合わせる「SFEB法」(Serum-free Floating culture of Embryoid Bodies-like aggregates)というものです。培養液の最適化は、博士取得後研究員だった渡辺毅一さんが調整してくれました。この方法によって、望んでいる細胞の分化誘導を高い確率でできるようになりました。
しかし、ヒトのES細胞に対して同様にSFEB法を行っても、なかなかうまくいかないのです。ES細胞を一つずつバラバラにしてから新しい培養皿に移し、そして一つ一つの細胞から細胞塊をつくっていきます。このとき、ヒトES細胞をバラバラにすると、ほとんどが死んでしまうのです。
そこで、ヒトES細胞の死を防ぐための阻害剤をいろいろと試みました。そうした中で、Rhoキナーゼ(ROCK:RhO-associated Coiled-coil forming Kinase)というリン酸化酵素が活性することが、バラバラになったES細胞が死ぬ引き金となっていることがわかりました。そこで、Rhoキナーゼ阻害剤を培養液に添加したのです。すると、ほとんどのヒトES細胞は生存するようになりました。

無血清凝集浮遊培養(SFEBq)法(拡大表示)
マウスES細胞酵素によってバラバラに分散させたものを、約3000個ずつウェルとよぶ小さなくぼみに入れ凝集塊をつくらせる。この細胞凝集塊を、網膜への分化に最適化した培養液で数日間、浮遊培養する。これにより、網膜前駆細胞に高効率に分化させることができる。SFEBqは、"Serum-free Floating culture of Embryoid Body-like aggregates with quick reaggregation"の略。


聞き手:
この方法は、SFEB法に"with Quick reaggregation"(素早い再集合)が付いて、「SFEBq法」(無血清凝集浮遊培養法)と呼ばれるようになりました。これらの方法の開発によって、細胞の自己組織化をより効率よく観察していったのですね。2011年4月には、マウスES細胞から立体的な人工網膜組織をつくることに世界で初めて成功したと発表しました。

笹井:
網膜というのは、光の刺激を受けてそれを大脳に伝え視覚をつくる神経組織です。先ほど話した色素上皮細胞を含め、いくつもの層構造をなしているのが特徴です。発生学的には、初期胚の間脳が突出してできる脳由来の組織です。時とともにその形が変わっていき、遠位の先端部が陥没してカップ状の「眼杯」を形成します。さらに培養を続けると、生後のマウスの眼と同様の多層構造をもつ神経網膜が形成されたのです。
ES細胞から立体構造をつくったわけですが、胚移植をするのは比較的容易なので、できるだろうという思いはありました。
網膜の構造をめぐっては、ドイツの発生学者ハンス・シュペーマン(1869-1941)が、両生類の実験をもとに、眼杯が形成されるとき水晶体や角膜の組織は不要である可能性を主張していました。しかし、その後のニワトリの胚などを使った実験で、水晶体や角膜などの前駆組織がないと眼杯は形成されないという報告が行われ、議論になりました。眼杯は水晶体が押してつくられるのではないか、角膜が眼胚の形を決めるのではないかなどの説もありました。
しかし、そうではありませんでした。ES細胞を使ったシンプルな系によるこの実験で、網膜自体の内因的なプログラムによって形が変わっていき、眼杯や何層もの網膜の形をつくることが明らかになったのです。
眼の構造の複雑さについては、チャールズ・ダーウィン(1809-1882)も「進化論で説明するには複雑すぎる」と考えていました。このダーウィンの悩みも、自己組織化という概念で解決されたことになります。

自己組織化により形成された、マウスES細胞由来の眼杯様組織
Rxを発現する細胞が緑色蛍光を示している。

聞き手:
2012年には、ES細胞から、様々なホルモンを分泌する脳下垂体を立体的に形成することにも世界で初めて成功しました。

笹井:
その前段として、2006年に、ES細胞から視床下部前駆細胞の分化誘導を実現させました。8年かかりました。下垂体は視床下部と近接しています。視床下部についての研究がヒントになって、下垂体組織の分化誘導を実現できたのです。
視床下部の前駆組織から刺激を受けて、口腔の粘膜の表皮をつくる口腔外胚葉が、ラトケ嚢という下垂体の基になる組織になっていきます。ラトケ嚢はさらに成長し、さまざまなホルモンを産生する内分泌細胞を生み出し、下垂体になります。
研究ではさらに、ラトケ嚢を培養して内分泌機能をもつ成熟した下垂体をつくることにも成功しました。培養の条件を変えることで、副腎皮質刺激ホルモンを生産する細胞や、成長ホルモンを産生する細胞などへの分化も確認できました。

視床下部からの刺激を受けて、下垂体という立体的な構造ができていく。これらの細胞と細胞の間には、高度な相互作用があっても不思議ではないと考えています。

マウスES細胞由来の下垂体組織
マウスに移植したところ、十分に成熟した腺からホルモンが分泌された。

聞き手:
ES細胞やiPS細胞などを用いて、望んでいる細胞を分化誘導する技術はずいぶん進んできましたが、今後はどんな方向を思い描いていますか。

笹井:
細胞を分化誘導することを考える時代はすでに終焉を迎えています。いまは、組織を創り出すことを考える時代に入っていると思います。これまでは、ある細胞を分化誘導させたいがために、細胞に無理やり働きかけていたような感もありました。しかし、組織を創り出すためには、細胞どうしの相互作用がうまく進むような環境をつくってやることが大切です。それには、細胞と細胞が相互作用していく様子をていねいに見ていくことが求められるでしょう。例えば、空間の3次元に加えて時間経過の1次元も加えた4次元で、1個の細胞がどのように変化していくかをリアルタイムに観察できる顕微鏡といったものが役立つことになると思います。

聞き手:
笹井さんは、基礎研究的なアプローチを中心に、動物の脳形成の原理の理解を目指してきました。その成果として生まれた網膜組織や下垂体組織などを形成する技術の先には、再生医療への応用への期待もあると思います。

笹井:
医療への応用につながるようなイノベーションも、先端的な基礎研究の研究から生まれてくるものだと思っています。実際、私たちの網膜組織の研究と、高橋政代先生(理化学研究所発生・再生科学総合研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダー)たちの研究が一緒になって、網膜細胞移植という臨床応用に向けた取り組みが行われています。

聞き手:
今後、発生学や分子神経生物学などの分野はどのように進展していくとお考えですか。

笹井:
理研が神戸に研究拠点を置いたのが2002年。それから10年が経ちました。今後の10年では、体の中の細胞の社会を再構成することを可能にしていくための研究が進むと思います。そこには、体の組織の形や大きさなどを制御するための研究や、なぜその形や大きさになるのかを理解するための研究もあります。私自身も、細胞が相互作用しあって組織をつくっていく、その創発の原理を理解していきたいと考えています。
インタビュアー:漆原 次郎
取材日:2013年1月29日



笹井 芳樹(ささい よしき)氏の略歴
理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)器官発生研究グループディレクター
1986年、京都大学医学部卒業後、神戸市立中央市民病院での内科研修医を経て、1988年、京都大学大学院医学研究科生理系入学。中西重忠教授の研究室で分子神経生物学の研究に従事。1993年、博士号(医学)取得。カリフォルニア大学(UCLA)医学部客員研究員。1996年、京都大学医学部生体情報科学講座助教授。1998年、京都大学再生医科学研究所教授に。2000年から理化学研究所発生・再生科学総合研究センター グループディレクター兼任を経て、2003年より専任(現職)。『Neuron』『Developmental Dynamics』などの学術雑誌の編集委員も務める。
1998年 Human Frontier Science Program Organization 10周年記念賞
2009年 文部科学大臣表彰科学技術賞
2010年 大阪科学賞
2011年 塚原仲晃記念賞
2012年 井上学術賞
2012年 第6回Sayer Vision Research Lecture Award(米国NIH財団)
2012年 山崎貞一賞
2012年 武田医学賞
ほか受賞多数